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徳島ブナ林帯での「天神丸風力発電事業計画」について

2018年4月 発行

標記の件について、JBNとして意見書を提出しました。
以下が意見書の内容です。

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PDFはこちら

©四国自然史科学研究センター

 

 

平成30年4月16日

「(仮称)天神丸風力発電事業に係る計画段階環境配慮書」

意見

 

氏名  日本クマネットワーク(JBN) 代表 大井 徹

 

住所  〒060-0818 北海道札幌市北区北18条西9丁目          

    北海道大学大学院獣医学研究院 環境獣医科学講座野生動物学教室内

        日本クマネットワーク事務局   事務局長 下鶴 倫人              

 

以下の理由より、(仮称)天神丸風力発電事業の撤回を求める。

【四国のツキノワグマ個体群の重要性】

四国のツキノワグマ個体群は、1900年代中頃までには、個体数と分布域を減少させ、石鎚山周辺、四万十川上流部、剣山周辺の3箇所に残存していた。その後、さらに個体群の衰退が進み、現在は剣山周辺だけとなった。1930年~1960年代に、懸賞金をかけてクマの捕獲が奨励されており、減少に拍車がかかった可能性が高い。

現在、確認されている生息確認数は十数頭、今から20年後の絶滅確率は、62%とする研究もあり、極めて危機的状況にある。

ところで、日本はアジアにおける環境保全、生物多様性保全、持続可能な開発目標の実現に向けたリーダーシップを発揮するべき役割にあり、ツキノワグマの保全に関しても同様である。四国のクマの保全は、日本も批准する生物多様性条約が示す3つの多様性レベル、すなわち”種内における遺伝的多様性”を担保する上で重要である。ツキノワグマは北東、東アジアを中心に分布するが、乱獲や生息地の破壊などにより分布が縮小分断化しており、国際的には絶滅危惧種として位置付けられている。日本の本州では分布拡大や生息数増加が認められているが、九州のツキノワグマは、2012年に絶滅が宣言された。四国のツキノワグマ個体群が九州の個体群に続いて絶滅すれば、国内的、国際的に大きな問題となるだろう。

 

【日本クマネットワークの活動】

日本クマネットワーク(JBN)は、クマ類と人の共存を目指し、情報交換、調査研究、普及啓発活動などを全国的に行っている民間団体である。現在、四国のクマの保全に向けて、四国自然史科学研究センター、日本自然保護協会と協働して精力的に研究と普及啓発活動を行なっている。

 

【(仮称)天神丸風力発電事業の問題点】

四国のツキノワグマは、剣山系を中心にわずか十数頭しか残っていないと推測されており、2010年以降にツキノワグマの利用が確認されたのはわずか100㎢に満たない地域である。天神丸風力発電事業は、その極めて限定的かつ重要な生息地と重なっており、ツキノワグマが生存のため依存している森林の広がりと質を、さらに減少させる可能性をはらんでいる。

これまでの研究から、ツキノワグマが生息地として主に利用しているのは食物の供給が十分確保される落葉広葉樹の天然林であることが明らかになっている。本州では一般に、ツキノワグマは落葉広葉樹林を中心にして広い範囲を面的に利用する。しかし、剣山系のツキノワグマは稜線部のみをなぞるように線上に移動しながら暮らしていることが明らかになっている。剣山系の森林は、歴史的に人間活動の影響を強く受けており、標高1000〜1300mまでの大半は針葉樹人工林によって覆われ、ツキノワグマにとって好適な生息環境である落葉広葉樹林はそれ以上の標高の稜線に筋状に残されているに過ぎない。今回の風力発電の建設はまさにその稜線に計画されており、ツキノワグマ残存個体群の生命線を直撃し、破壊するものである(添付図参照)。

また、建設により事業予定地の環境が破壊されるだけではない。分布の中心部から、細い尾根で繋がるその先の生息適地への連続性(具体的には剣山系から雲早山への連続性)が、本事業により分断されることとなる。今後、個体群を健全な状態で維持していくためには、生息数の増加とその生息を支えうる質を伴った生息域を拡大することが不可欠である。本事業計画は、四国のツキノワグマの存続を考える上で必要不可欠な分布拡大の可能性を消滅させる。

「(仮称)天神丸風力発電事業計画段階環境配慮書」においては、二名の識者が、この事業がツキノワグマ個体群に大きな影響を与える可能性を指摘している。それにも関わらず、会社側は、環境影響を回避または軽減できるとしている。また、想定される影響に対する対処法が説明されていない。ツキノワグマに限らず野生生物の地域的な絶滅は一度起これば取り返しがつかない。科学的予測の不確実性を考慮すれば、個体群存続にマイナスの影響を与える可能性がある人為的行為は、予防原則に則り、回避しなくてはならない。

再生可能エネルギーの開発は必要であるが、その建設地は慎重に選択する必要がある。高標高域にわずかに残された落葉広葉樹の天然林は、四国の自然の姿を現在まで伝える貴重なコアエリアであり、生物多様性保全にとって最重要地域である。ツキノワグマ個体群の保全のためにもなくてはならない環境であり、そうした地域における開発行為は厳に避けるべきものである。このような理由から(仮称)天神丸風力発電事業の中止を強く求める。

以上

 

補足:日本クマネットワーク(JBN)は、日本における人間とクマ類との共存をはかることを目的に設立されたNGOである。クマ類に関する情報の共有、クマ類の保護や被害防止などに関する問題提起、地域の活動支援などを行っている。クマ類保護管理を専門とする研究者、各地のクマ問題の現場で活躍する専門家、自然保護活動家や国や地方の行政関係者、学生や主婦の方など、クマに興味のある様々な方で構成されている。詳しい活動内容についてはホームページhttp://www.japanbear.org/ を参照いただきたい。

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